巻頭言
やはり立ち止まって考えてほしい


谷口哲一郎
(世論総合研究所)
 約30年前から最近まで、この協会の理事をやっていました。まだ30代でしたが、みんなからおだてられ、研究活動委員長になったのが最初でした。この間、講演会やシンポジウムで多くの方にお世話になりました。近年は選挙ものを多く企画しましたが、やはり調査方法に関するものを取り上げることが多かったように思います。

 当時は面接調査の回収率低下が問題視され、調査関係者は苦境に立たされていました。どう対応していくのか妙案はありませんし、協会でもいつも話題になるのですが、効果的な対策は見出せません。一方では電話調査の研究が盛んになり、「早く」「安く」「正確に」という命題に応えるかたちで現実化していくことになります。そんな調査方法の変遷期をこの協会と過ごしてきて、私自身も面接調査を上手くやる自信はなく、電話調査に活路を見出すことになるのですが、世論調査を生業とする者として、教科書の通りにやっても上手く行かない、現実的対応を取るしかないと考えてきましたRDD法といってもランダム「もどき」であることは分かっていましたが、「それらしい結果になるじゃあないか」というのが結論でした。しかし、その後の経過をみると、ネット調査の台頭、携帯電話調査にも手を染めるようになってきて、どこまで行くのか想像がつきません。自記式、他記式の問題はないのか、信頼性や妥当性はクリアできているのか、それらしい結果なら本当によいのかと考えてしまいます。

 社会環境の変化によって調査方法も変わっていくことに異論はありません。世論調査だけが変化を余儀なくされている訳ではありませんから。長年、社会調査を教えていますが、20年前は層化2段抽出法や面接聴取法の意義を生き生きとしゃべっていたのですが、最近では学生の誰もこんな面倒なことはやってくれないだろうな、と思いながら講義をしています。

 近年気になっていることがあります。 30年前に比べると、この協会で市場調査関係者が減ってきたことです。調査手法が共有されていた頃から見れば、市場調査分野の方がはるかに変化していて、こちらはまだまだ原則論が生きている業界なので、それが受け入れ難いのかも知れません。しかし、こちらは世論調査の総本山、死守しなければならないことがあるはずです。電話調査の初期の頃、先輩方からいろんな注意を受けたことを思い出します。「面接調査のことを分かっている人が電話調査をやるのは許す」と言われたことは示唆に富んだ話だと思います。現実対応と調査理論が上手く折り合えるようなやり方はないだろうか。こんな時だからこそ立ち止まって考えてほしいと思う。

これは「よろん」118号に掲載されました。