巻頭言
世論調査の第四世代


勝田 渡
(元日本リサーチセンター)
 昨年の秋、三十六年勤めた会社をやめた。

 生活を変えようというので、まず、本の整理にとりかかった。私の書斎は三階にあり、東と南の二方向から日が射し込む。まことに暖かい。温室のようなその部屋で、一冊一冊の埃をはらった。棚の奥、普段では目の行き届かないところにね「日本世論調査史資料」があった。自分も編集作業に参加したなつかしい本である。本の整理は急ぐ仕事ではない。そこで、この本の中をのぞいた。

 「巻頭言」と「あとがき」によれば、調査史資料の編集作業は昭和五十五年に始まり、六十一年九月に終わっている。今から二十年前のことである。

 資料3 特定調査に関する記録(再録)の中に、(8)世界青年意識調査(二木宏二)がある。二木は私の上役であり、学校の先輩であり、遊びの勧誘主であった。その二木が亡くなって、まもなく五年目を迎える。

 二木はよく「自分達は世論調査の第三世代です。あなた達は、まあ、第四世代ですね」と言っていた。そこにどのような意味があるのか、その当時はあまり考えなかった。

 調査史資料編集の作業に加わり、諸先輩の苦労を知るにつれ、漠然と次のように感じた。第一世代は志を立てた。この国が再びあのような不幸に向かうことがないようにと願い、輿論調査に取り組んだ。「志の世代」であろう。第二世代は、その志が社会一般から受け入れられ、理解されるように理論を深めた。「理論化の世代」であろう。第三世代は、理論的に示された作業フレームを効率的に処理できるようにした。「実務家の世代」であろう。

 それでは、自分が属するとされた第四世代は何をしたのであろうか。世論調査は盛んにおこなわれています。しかもタイムリーです。ビジネスとして自立し、それを職業とする人も多くなっています、と答えたら「志の世代」は何というだろう。世論調査という社会機能に第四世代は何を加えたかが問題だととわれそうだ。不勉強な自分にはうまく答えられない。

 しいて言えば「多様化」であろうか。しかし、それはなお進行中であり、今そのようにまとめていいかどうかわからない。

 現役を引退した後でこのようなことを考えるのは実に奇妙であるが、どなたか是非ご教示願いたい。


これは「よろん」87号に掲載されました。

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