巻頭言
村尾 望(個人会員)
昨年の米国大統領選挙、英国のEU残留か離脱かの国民投票では、事前に報じられた予想をくつがえす結果となり、しかも、その結果はいずれも世界史的な転換点となるような大事件であったから、ジャーナリズムの信頼度に疑問符がつけられることにもなった。
もちろん、接戦であればあるだけ予想通りいかなくて当然であろう。
米国の場合は、間接選挙であることや投票率が低くなった影響もある。直前までの調査結果の多くは僅差でクリントン氏が上回っていたようだが、トランプ氏の追い上げが急だったことからみて、逆転の可能性は少なからずあると判断できたはずである。
しかし、まさかあり得ないだろうとかあってほしくないという思いがジャーナリズムに強く、そうした論調への傾きが目立っていたため、事前予測調査そのものがおかしかったのではという印象を与えた面がある。
英国の場合はより単純な国民投票だが、わずかながら残留支持が優勢との予想が出たことで安心した残留支持派の中に投票にいかない人が増えた可能性や、投票率の低い若者ほど残留派が多いことが影響したかもしれない。
選挙や国民投票に際して、投票結果の予想や論点に対する評価など、様々な世論調査が実施されて人々に参考情報として提供されることの意義は大きいことは改めていうまでもない。
そして帰趨をめぐり接戦になったり賛否が拮抗するケースも多いが、その場合はどちらが優勢かを伝えるより、どちらの結果になってもおかしくないと知らせることのほうが重要であろう。
期待と予想が混ざり合い、区別がつかなくなるようなことになるといけない。
ジャーナリズムの伝え方によって投票行動に影響するのは許容されるとしても、より正確な形でないと信頼を損ないかねない。
一方で、情報を受けとる側も調査結果を見てより的確に判断できる力を養っておくに越したことはない。
そうすれば不正確な情報に惑わされることが減るだろう。
そして多様な調査手法があり誤差や偏りは避けられないとしても、サンプリング理論という基礎に支えられていること、そこからの隔たりが大きくなればなるほど調査結果は疑わしくなることをできるだけ多くの人が知っておくべきであり、そのような「世論調査リテラシー」を早い時期から身につけておくことが必要である。
その意味で、昨年から18歳以上を有権者とすることになり、高校教育の中で選挙や政治のしくみや意義を学んだり体験する機会が与えられるようになったことは喜ばしいことだ。
その中で世論調査のしくみ、意義や結果の見方などについても十分に学べるようカリキュラムに取り入れてほしいと思う。
この巻頭言は「よろん」119号に掲載されました。