世論調査雑感 / 安藤 昌代

巻頭言

安藤 昌代(新情報センター)

わが社では毎年夏インターシップ研修(5日間開催)を2回開催し、大学2~3年生を中心に10名程度受け入れている。世論調査の普及・啓発のための公益事業の一環として実施しており、研修プログラムは、調査の企画、標本設計の概論、調査項目作成のための概論、調査票の作成演習、集計案の作成と集計プロセス概論という調査の一連の流れに沿って、講義と演習で構成されるが、(学究的な視点というより)実務者的視点から、今日的な調査の実際について学んでいただいている。

研修最終日には、フィールドワーク実習(エリアサンプリングでの面接聴取法での調査実習)にもトライしてもらい、今日における調査の厳しさも体感してもらっている(もちろん、実習に送り出す前に簡単なマナー研修や調査依頼の仕方、面接調査の方法について講義とロールプレイ実習を行っている)。参加した大学生から終了後に「フィールドワーク実習が一番印象強く(途中省略)今まで味わったことのない緊張感の中で精一杯力を出しきることができました。
調査員の仕事はどんなことにも挫けない強いメンタルと積極的に行動する勇気がとても大事だと思いました。」といった礼状が届く。
エリアサンプリング調査は、特に都市部ではスキルの高い調査員でも何十件もの世帯をアタックしてようやく1件の調査が完了できるのが現状である。そのため、初めて実査を行う大学生にとっては大きな試練であり、1票完了した達成感は何物にも代えがたいようである。

講義の中で、世論調査の回収状況について内閣府政府広報室の世論調査をあげて話をするが、18~19歳及び20歳代の世論調査の協力が4割前半であることに、大学生も一様に驚く。
ちなみに、弊社が昨年担当した「移植医療に関する世論調査」でも、全体回収率は63.7%であるが、18~19歳は43.1%、20歳代は41.6%であり、当該年齢の男性では4割であった。(調査概要の詳細はhttps://survey.gov-online.go.jp/h29/h29-ishoku/1.html

層化二段抽出法で行った標記調査の年代別抽出標本数は、60歳以上が40.1%を占め、18~29歳はわずか11.8%である。
改めて若年層の人口の少なさを実感する。
ましてや、60歳以上が7割の回収率であることを鑑みると、調査方法が科学的標本調査に基づいたものであるとしても、我が国の世論がどうしても人口が多い層を中心に形成されてしまう現実に(特に日本の将来を問うテーマの場合)、本当にこれでよいのかと疑念を感じることもある。
選挙においてはドメイン投票方式(親に未成年の子どもの分の投票権を与える方式)などが一石を投じているが、世論調査ではどうであろうか。
研修に参加した大学生には「そもそも人口が少ないのだから、若者が世論調査や選挙で意見を言っていかないと、施策が偏り世代間格差はどんどん広がっていくよ。もし調査対象者に選ばれたら必ず調査に協力してね。」とはっぱをかけている。


この巻頭言は「よろん」121号に掲載されました。

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