新聞社の世論調査担当者として思うこと

巻頭言

川崎英輝(読売新聞社)

ここ数年、いくつかの大学の授業に講師として赴き、「新聞社の世論調査」をテーマに話す機会をいただいている。世論調査の立案・実施・記事出稿を担当するデスクの立場から、電話調査の方法論や、報道各社で内閣支持率が異なる理由、世論調査の質問作成にあたって留意していることなどを、実際の例をもとに説明している。

SNSのツイッター上では、「マスコミの世論調査は捏造としか思えない」「安倍内閣を支持しないと答えたら電話が切れた」等々の根拠不明の書き込みが飛び交っている。今どきの学生は、世論調査に偏見や否定的な印象を抱いてはいまいか。当初は不安もあった。

しかし、授業後に学生が書いてくれた感想文に目を通すと、次のように、そもそも世論調査の意義や読み解き方を初めて知ったという率直な反応が多い。
 「新聞社ごとに論調は違うが、それとは関係なく調査を公正に行おうとする姿勢を感じた」
 「調査方法や日程、質問内容で結果が大きく異なるので、様々な新聞社の調査数字のトレンドに着目する必要があると感じた」
 90分程度の授業1回でも、世論調査のツボはきちんと理解してもらえるようだ。同時に、世論調査の信頼性や読み解き方を、もっと多くの人に知ってもらう必要があると実感する。

報道機関の世論調査は、科学的に正しい方法で調査を行い、結果を公正に報道し、情報の受け手側も結果を正しく読み解くことで意味を成すものだ。調査結果の曲解に基づくような論評は、フェイクニュースと同様に有害であり、拡散すれば深刻な影響が出かねない。

世論調査に限らず、情報を正しく読み解く能力、すなわち情報リテラシーは、インターネット上にフェイクニュースが氾濫する今の時代、万人に必須のものだ。それならば、大学よりも前の学校教育段階できちんと教えるべきだろう。実際、読売新聞社が2019年9~10月に実施した全国世論調査(郵送方式)で、「新聞やテレビ、インターネットなどのメディアを利用するときに、正しい情報を見分ける方法を、学校で教えるべきだと思いますか、教える必要はないと思いますか」と聞くと、「教えるべきだ」と答えた人は84%に上った。

「正しい情報を見分ける方法を教えるなんて、そんなに簡単なことではない」というご意見もあるだろう。それでも、多少なりとも、具体事例をもとに教えるのと、教えないのでは、情報の受け手としての心構えも大きく違ってくるのではないか。

中学・高校の学校現場で、情報リテラシーと合わせ、世論調査の基礎を学ぶ機会も設けてはもらえないだろうか。大学の授業の感想文を読むたびに、そんな思いを抱いている。


この巻頭言は「よろん」125号に掲載されました。

PAGE TOP ↑