社会調査による政治学の消長 / 三宅 一郎

巻頭言

三宅 一郎(個人会員)

最近、選挙調査研究の発展ぶりはめざましい。私が参入した40年前と比べると、隔世の感がある。選挙ものは売れないといって、かっては出版社に敬遠されていた専門研究書の出版も増えている。選挙研究は政治学界の中でも重要な一角を占めるようになった。

この発展の背景には、選挙研究のインフラ整備があることはもちろんである。

一般に、ある研究領域での成果の発展は、就職口の増加にある。大学で言えば、選挙研究者が占めてもおかしくない「政治過程論」「政治意識論」「数量政治学」「日本政治」などの講座が相次いで設置されたのが大きい。

選挙調査研究を勧める特殊なインフラの働きとして一つだけあげておこう。選挙調査の制度的継続性の確保である。
政治学的な選挙研究では、すべての国政選挙について、全国大の確率サンプル調査を実施するのが望ましい。さらに、調査実施の制度的継続性を確保するためには、調査費用が文科省の科学研究費で賄なわれる必要があろう。
この条件に見合う第一回調査は1983年(JESⅠ)のことで、比較的最近になってである。ついで、第二回は1993~1996年(JESⅡ)、第三回は 2001~2005年(JESⅢ)と続く。継続が制度化されたわけではないが、今後、10年に一度程度の調査継続は期待できるのではなかろうか。

以上は研究レベルの向上に楽観的なインフラの変化だが、もちろん、順風ばかりが吹いているのではない。
インフラの整備が停滞しているケースや、そればかりか、インフラが揺るぎ始めているケースもある。

まず、インフラの劣化が見られるのは、調査環境の悪化である。これはすべての社会調査に共通の危機であるから、業界をあげて、電話調査などでの対応がひろく試みられている。
私はその努力に敬意を表するものの、対応方法によっては、調査の建前と現実との差がさらに拡大するのではないかと怖れている。関係者の一層の努力を期待したい。

必要なインフラ整備で、はかばかしく進んでいないものといえば、まず、データ・アーカイヴが頭に浮かぶ。
データ・アーカイヴの必要性については、世論調査専門家には、すでに耳にたこができていることと思うので、ここでは述べない。
研究者による調査データのデータアーカイヴ化とその公開はもう慣習化されていると言ってよい。だが、保存・公開が求められるのは、研究者による学術調査だけではない。
マスメディアや調査専門会社の保有する膨大なデータも、封印された宝の山である。是非公開されるよう望みたい。


この巻頭言は「よろん」102号に掲載されました。

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