世論調査の相互確証 / 井芹 浩文

巻頭言

井芹 浩文(崇城大学)

世論調査への風当たりが強い。最近の批判の論点の一つは世論調査が報道機関によって操作されているのではないかということだ。
調査の信頼性に対する疑問がその背景にある。その根拠の一つに同時期に発表された各社の調査結果が違うことがある。

例えば、安倍内閣発足直後の調査での内閣支持率は、共同通信62%、朝日新聞59%、毎日新聞52%、読売新聞65%、日経新聞62%だった。最高と最低の支持率の差は13ポイントもある。
通常この種の調査の誤差幅はおよそ3ポイントとされるから、どこに「真の値」があるかは分からないにせよ、生の調査結果を見る限りでは、どこかの調査が「真の値」から外れていることは明らかだ。

毎日新聞は2012年12月29日付朝刊で検証記事を掲載し、他者の調査が「支持する」「支持しない」の2択としているのに対し、毎日新聞の調査では「関心がない」という選択肢を追加して3択としていることが原因の一つではないかとの見方を示している。
この無関心層は他社調査の「分からない・無回答(DK・NA)」に流れ込んでいることが推測されるが、やはり明示的に「関心がない」という選択肢を設ければそれが膨らむだろうと思われる。

そこで毎日新聞の「関心がないとの回答」と各社のDK・NAを除いて再計算してみると、共同通信74%、朝日新聞71%、毎日新聞67%、読売新聞71%、日経新聞68%となり、上下7ポイントまで差が縮まる。これだと調査誤差の範囲内と言える程度に近づく。

しかし、そこまで細かい数字にこだわる必要があるのか。野田内閣末期の支持率は各社とも20%前後だった(共同通信の2012年11月調査で17.7%)。どうひいき目に見ても、野田内閣が4割とか5割あったとは考えられない。
逆に安倍内閣支持率は報道機関が作為的に高く出しており、実は2割とか3割と低調だったというのも虚言に近い。数%の違いをあまり気にせず、それこそ10%刻みくらいの大雑把に受け止めておけば内閣支持の状況としては必要にして十分な条件を満たしている。

まして各社が現在行っているRDD法は、ランダムな電話番号を選んで掛ける方法だから、各社の調査対象になった有権者は全く違った人であることに注意を喚起したい。
全然違う人に聞いてほぼ同水準(10%刻みで見て)の内閣支持率の数字が出ているという単純明快な事実だ。各社の調査結果は意外にも、相互に調査の信用性を確証しているものではないかと考えられるが、こういう大雑把な議論で懐疑派に納得してもらえるかは分からない。(ちなみに「相互確証」というのは、核戦略論で使われる用語だが、説明は省く)


この巻頭言は「よろん」112号に掲載されました。

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