世論調査の今昔 / 越谷 和子

巻頭言

越谷 和子(個人会員)

世論調査協会報「よろん」がこの号で50周年を迎えた。
終戦の年の昭和20年(1945)連合軍総司令部の”人民による政治”の大命題のもと、同司令部民間情報局(CIE)による世論調査指導が行われ、戦後の日本の世論調査が出発したが、その後の関係者の努力により、今それが着実に実っていることをみるとまさに感無量である。

だが、初期の世論調査には、今と異なる点がいくつかあった。
毎日新聞の「読書世論調査」は昭和22年(47)に第1回を実施したが、このときの調査対象は一般国民でなく、数え年18歳以上の読書している男女、つまり”読書人”であった。
また、調査も「変形割り当て法」で、サンプリングに際しては、各県の放送聴取者数、新聞普及率、昭和17年(42)の徴兵検査時の壮年男子の学歴調査結果、人口などを加味した「地方別総合文化度」をつくり、そこから男女各5.000人を抽出、全国の都道府県に特定の割合でふりわけている。
また、集計は全部手集計で、パーセントも計算尺や手回しのタイガー計算機を使って出している。現在はサンプリング手法も確立され、集計や計算などすべてコンピューターで処理されているが、当時は大変な努力のもとに調査が行われていたわけで、先輩たちの努力にただただ頭が下がる思いである。

また、この時の調査には、回答者からも熱い思いが寄せられている。例えば、”終戦後読んだ書籍のうち良書として推薦したい本”には、ゾルゲ事件の首謀者として処刑された尾崎秀実が獄中から妻子に送った書簡集「愛情はふる星のごとく」や、当時毎日新聞社会部長・森正蔵が新聞記者の目でつづった満州事変以来の裏面史「旋風二十年」、原爆症の床で死をみつめながら書いた永井隆の「この子を残して」など、心の飢えを書籍でいやそうとする国民の真摯な読書態度が浮かび上がっている。最近の活字離れ、書籍離れと比較すると雲泥の差である。

さらに、この調査はそれ以後も継続して行われ今年で第54回を迎えた。この長期にわたる調査結果をたどっていくと、日本人の読書生活の歴史が「戦後日本人の心の軌跡」を形づくっていることが分かる。時代は変わり調査技術は進歩していくが、一番大事なことは、きちんとした調査を行い、時代の証言としての調査結果を正しく発表し、これを後世に残していくことではないかと思うのである。


この巻頭言は「よろん」86号に掲載されました。

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