一寸法師の開き直り / 本多 良樹

巻頭言

本多 良樹(個人会員)

この見開きのページには巻頭言と並んで協会の倫理綱領が毎号掲載されている。
この倫理綱領は、住民票閲覧について全国の自治体宛協力依頼のパンフレットを送付したとき、掲載のためにとり急ぎまとめたものである。
綱領なるものはもともと政党がその活動方針を明確にし党員に徹底させるために作成したもので、重厚で長文なるを以ってよしとされたであろう。
当協会でもかつては委員会を設け綱領の作成が検討されたが、なかなかまとまらなかったという経緯がある。

現在会報に掲載されている綱領は三百字に満たない文字通り簡にして要を得たもので、研究の参考にしたいから教えてほしいという人に、この一文を紹介すると失望感を示す人もいる。
外国から英文のものをというメ-ルも入るが、この程度なら素人翻訳でも十分間にあう。
この綱領を作成したころから協会の活動に一委員として関わるようになっていたが、重厚長文のものは結局読まれないからという理由で、簡潔性を旨とした現在の形に落ち着いた。
しかしその時はパンフレットに間に合わせるための一時的措置で、いずれ立派な本綱領ができるだろうと内心では期待した。
ところが毎号定位置に印刷されたこの簡潔綱領を目にしていると次第に愛着がわき、近頃はもうこれしかないのではないかと思うようになってきている。
確かに大綱領は作成者の意図に反し、あまり読まれないであろうし、なによりも当協会の会員構成を見ると世論調査という一点では結ばれているが、本業は多種多様である。
また、多くの会員にとっての共通項、或いは最大公約数としての倫理綱領を考えると、複雑なものはいろいろ利害がからんでまとまりにくいだろうし、むしろこの含蓄のある文言を広く解釈運用していけば、世論調査活動はおおむねカバ-できるのではないかと思う。
ただし日本国憲法と同じ、時代相応の見直しは必要とするかも知れない。

現在の協会の基本財産は千二百万円弱であり財務内容はささやかで文字通りミニ財団である。
財団一般と比較すると、まるで一寸法師であるが、五体は満足かつ健全である。経常費も十分配分できないから、協会の活動の中心となる委員会活動はもっぱら関係委員のボランティアで成り立っている。
したがって年度の収支は黒字で負債もなく、表向きは健全経営である。
世論調査を欠かせない社会になったが、その水準を維持発展させていくためには日本世論調査協会の役割が必要不可欠である、ということは論を俟たない。
なりは小さいが、倫理綱領という小さな剣をかざして活躍する一寸法師が立派な若武者に変身することがあるとすれば、多くの会員の献身なくしては望めない。


この巻頭言は「よろん」94号に掲載されました。

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