世論調査は、政治の「侍女」なのか / 島竹 俊一 

巻頭言

島竹 俊一(個人会員)

本稿が「よろん」に掲載されるころは、自民党総裁選で安倍晋三氏が圧勝し、「安倍首相」が誕生していることだろう。
現代政治のウオッチャーの一人として、寸劇の一つも無い、つまらない総裁・総理選出劇という感想ではあったが、世論調査の視点から考えても疑問なしとしない感慨を持ったことも事実だ。

小泉首相が06年9月末の自民党総裁の任期切れと同時に退陣することが確定的になった時点で、ポスト小泉をめぐって、各メディアは報道・調査の火ぶたを切った。
このとき、有力候補といわれたのが、安倍晋三幹事長、福田康夫元官房長官、麻生太郎外相、谷垣禎一財務相(いずれも当時の肩書き)の4人。

ただし、一人ひとりについて、「有力」の根拠が明確に示されたわけではない。
それなのに、ここで目敏いというか、おっちょこちょいというべきか、4人の氏名から一字ずつとった「麻垣康三」なる造語を打ち上げ、はしゃいだメディアがあった。
筆者が耳にした様々な情報、目にした状況を総合的に判断して、この時点でもそれから先も、福田康夫氏の立候補はほとんど絶対あり得ないとしていただけに、それとは随分かけ離れた状況になってきて、戸惑ったものだ。

ところが、通常国会が閉幕し、政治の関心が総裁選に集中するとともに、調査の方にも、「麻垣康三」圧力が働いたのか、“乱れ”が目につき始めた。
「安倍氏か福田氏か」と二者択一させたあるインターネット調査は例外としても、▽選択肢を4人だけに限って選ばせる、▽「4人+山崎拓」「4人+山崎拓+河野太郎」から選ばせる、▽額賀福志郎氏や鳩山邦夫氏、与謝野馨氏を出したり、引っ込めたり。福田氏が、「やる必要のない」(周辺)不出馬宣言をした後は、「3人+『その他の議員』」と設問を変えたメディアもある。
3人は確定的としても、「その他の議員」を「次期総理にふさわしい」と思っている人に配慮したのだろうが、いかにもとって付けた対応だ。違和感だけが残った。

候補予定者が浮いたり沈んだりする状況は、世論調査の設問作成に困難をもたらすことは経験上承知しているつもりだが、世論調査と人気投票はまったく違う。
調査は、政治報道の迷走と一線を画す工夫が欲しかったというのが結語だ。


この巻頭言は「よろん」98号に掲載されました。

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