巻頭言
林文(東洋英和女学院大学)
統計調査という言葉が連日報道に登場する。巻頭言に何を書いたらよいかと考えている間に、話題には事欠かない状況になってしまった。私が気になるのは、基本統計調査の不正の問題と、沖縄県民投票のことであり、単純に感想を述べさせていただこうと思う。
基本統計調査については、ひと昔前には、政治家はだめでも官僚がしっかりしているので、この国は大丈夫、といった見方もあったが、それがそうは言えなくなっているのだろうか。国会で野党に追及され、官僚に責任を押しつけるのはよくあることだが、実際に調査に携わる人たちはどうなのだろうと心配になる。全数調査であるはずの調査が標本調査になっていたこと、直に手渡しで依頼すべき調査を郵送で済ませていたこと、など、それでよいとの判断がどこでなされたのだろうか。大きな問題とは判断しないままに始まってしまっていたのかも知れない。
世論調査では一般的に調査対象とする集団のサイズが非常に大きいので、標本調査が必然であるが、調査への信頼性の考え方は無関係ではない。戦後の世論調査の発展の初期には、日本の制度状況下でいかに無作為な標本を抽出できるかを、単なる理論だけでなく研究しながら進められており、対象者抽出の方法が詳しく記されている。面接調査から電話調査、それも携帯スマホ利用へ、そしてウェブ調査など新たな調査媒体が登場し、試行錯誤と理論的研究がなされているが、安易に結果だけが示されることも多い。研究分野によっては、回収率や計算のできる誤差だけを金科玉条のように示すが、真実に迫るには、実際の対象の選択、調査方法などをきちんと記述することが重要である。しかし、行政上の決定などに関する場合は、決定基準があらかじめ定められていることが必要であろう。
もう一つの調査に関連する話題として、沖縄の住民投票がある。これは参加が自由意志による全数調査ともいえ、回答選択肢の問題は、世論調査における課題でもある。「賛成」「反対」の2択から、「どちらでもない」を加えることによって、全市町村で行われることとなった。「賛成」「反対」を問う場合に、中間回答を加えるのがよいかどうかは、よく問題となる。中間回答は、無回答を減らすという効果がある一方、多くが中間回答に集中してしまう可能性もある。しかし、2択では回答し難いことによって投票率が下がることも考慮すれば、中間回答の解釈の問題もあるが、3択にしたのはよい選択であったように思う。
このように統計調査についても意見を求める調査についても、政治が絡む問題で話題となり、これを機会に人々の関心が深まり、調査そのものへの安易な信頼低下とならず、賢く判断ができる知恵に繋がることを願っている。
この巻頭言は「よろん」123号に掲載されました。