政策の大転換と世論調査

巻頭言

堀江 浩(個人会員)

基本政策の大きな方針転換を繰り出す岸田文雄首相だが、報道機関の世論調査は内閣支持率のほかに政策への評価も欠かせない。国のかたちや基本路線にかかわる新たな方針や決定は多くの論点がからんだ「問題群」とも言える。
それを通りいっぺんの質問で片付けてよいものか、さりとてどう聞くか、担当者は苦労するところだろう。

こうした難テーマに直面したときよくやる方法は、質問文に説明を加える、論点ごとに分けて聞く、あるいは極力単純にそのまま聞く、であろうか。とはいえ説明を加えるにしてもどう説明するかが難しい。ただでさえ難問のところに質問文が複雑になり、説明が回答を誘導しかねない。

問いを分割し、重ねて聞いてみてもそれが学習効果を生むようでは逆効果だ。総論と各論で意見が異なるように、分割した答えと全体的な賛否が整合しないこともある。個別の取材なら深掘りもできるが調査はそうはいかない。となると極力単純に一問でゴロっと聞いてみるという手もあるのだろう。

ゴロっと投げ出すような質問はある意味、簡単だ。ニュース記事を基に本文を作り、最後に賛否を問えばよい。テーマをよく知らない人でもニュースのことばに気づけば何を聞かれたかはわかるだろう。極力わかりにくい質問にはしたくない。だからゴロっと聞いてみる。だが、それによって何が測られているのだろうか?

考えなければならないのはメディアによる文脈や意味づけだ。そして政治の側が生み出すことばだろう。いま私たちは無数の文脈や意味づけに満ちたネット空間の中で生きている。
手元のスマホには政治のことばがだれかによって意味づけられ、似通った文脈のなかで増幅されて届く。政治の側から発信されることばも核心をずらしたり一部が誇張されたり、あるいは言及されない点があったりする。しかもネットユーザーに直接届く回路を政治家は手に入れた。一方、テレビや新聞に直接触れる人は年々減っている。

政策評価をめぐる世論調査が難しいのはテーマへの接触度や理解度に回答が大きく左右されるためだ。現状においてネット空間における意味づけや文脈の影響が飛躍的に大きくなっている。
回答者が重視した論点や賛否の理由に迫るには、プロフィールや社会経済状況だけでなく、日ごろ接触するメディアや、そこでの文脈、意味づけとの関連も意識せざるをえない。
政治家側から発信されることばの受容度も知りたいところだ。
世論調査は大きな傾向がつかめればよいという考えもあるだろう。一方で、世論が生まれる源に分け入るような調査も見てみたいと思う。「歴史的な転換点」にあるからこそ。


この巻頭言は「よろん」131号に掲載されました。

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